学院長からのメッセージ

令和4年10月
大学院総合化学院長 佐田 和己

 昨今SDGsとして議論されているように、持続可能な社会を目指したエネルギー開発、地球規模での気候変動、「地球誕生以来6回目の大量絶滅」と呼ばれている生物多様性の著しい低下、マイクロプラスチックなどの環境問題、水や食糧の持続的な供給、COVID-19などの感染症の拡大などは、現代社会が直面する地球規模の問題です。これらはいずれもヒト(ホモサピエンス)の繁栄に深く関わりがあるとされ、現代を地質学的な時代区分として「人新世」と呼ぶことが提案されています。これらの問題の根本を考えるとき、その多くがヒトによって行われた物質変換に由来しています。したがって、物質変換を究めることこそが、これらの問題を解決に導き、ひいては地球とヒトを同時に救うことにつながります。本学院では、物質変換のサイエンスの中核である「化学」について、理論化学から生物化学まで幅広い研究分野をカバーしており、それぞれの分野における最先端の教育・研究活動を総合的に経験することで、世界を牽引する次世代のフロントランナーの育成を目指しています。

 本学院は、化学の基礎に重点を置き、現象を理解する立場から物質を考える理学部化学と、実学を重視し、人工物による物質・反応のデザインの立場から物質を取り扱う工学部応用化学の融合に加え、学内の触媒科学研究所、電子科学研究所、遺伝子病制御研究所、化学反応創成研究拠点の協力、学外の物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、理化学研究所との連携により組織された、化学に特化した国内では他に類を見ない「総合化学」の大学院であることが特徴として挙げられます。具体的には上記組織に属する51の研究室が、それぞれの研究分野に応じて、以下の3つのコースに所属し、化学の各専門領域について理学系・工学系の双方の立場から俯瞰した体系的教育が実現できるカリキュラムを組んでいます。

  • 分子化学コース
  • 分子レベルでの反応の制御と解析、反応を効率的に実現する触媒開発と、それを巧みに利用した化学プロセス開発に至る一連の反応開発とプロセス設計

  • 物質化学コース
  • 分子や原子を階層的に組み上げることにより新たな新機能を示す有機高分子、無機材料、金属材料、ナノ材料等と、その複合材料の創製

  • 生物化学コース
  • 細胞と生物自体の構造・機能の化学的な解析に基づいた生体システムの人工的制御と生体の各種機能を発現する医学・医療関連材料の設計

 本学院では、本学または海外連携大学で海外の学生と共に英語講義を受講する「Hokkaido Summer Institute」や「Learning Satellite」等のプログラムへの参画により、教育の国際化に積極的に取り組んでいます。さらに、フロンティア化学教育研究センター等の協力を得て、海外の共同研究者の研究室に2ヶ月程度滞在して研究を進める「ショートビジット」、海外からの大学院生を受け入れる「ショートステイ」、また博士後期課程学生自身が企画・立案等すべてを行う「CSE Summer School」をはじめとした留学生との各種交流事業により、世界的に活躍する人材となるべく、異文化理解力や国際的コミュニケーション能力を向上させる取り組みを進めています。

 さらに本学や民間財団の各種事業への積極的な応募の推奨を通じた大学院生の経済支援に取り組んでいます。特に博士後期課程学生に研究に専念できる環境を目指し、文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設準備事業」による「アンビシャス博士人材フェローシップ制度」やJST「次世代研究者挑戦的研究プログラム」による「Society5.0を牽引するDX博士人材育成のための研究支援プロジェクト」、「化学産業界が望ましいと考える博士後期課程の教育カリキュラムを実践する大学院専攻」として本学院が採択されている、社団法人日本化学工業協会「化学人材育成プログラム」等により、多数の大学院生が経済支援を受けています。また日本学術振興会特別研究員(DC1、DC2)の採用実績は本学の中でもトップレベルです。これらは、修士課程学生も所定の時期に応募できますので、博士後期課程への進学を希望している学生は積極的に活用してください。

 また様々な大学院教育プログラムへの参加を奨励し、研究能力だけではなく、グローバルな課題解決を可能とする次世代の国際的なリーダーを育成しています。特に「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(ALP)」や「スマート物質科学を拓くアンビシャスプログラム(SMatS)」では、物質科学分野において、実験科学と数理科学・計算科学・データ科学を融合させ、さらにトランスファラブルスキル(汎用的能力)の修得が可能となっています。

 博士課程に進学する学生に向けて博士人材の活躍やキャリアパスを示し、産業界(化学系企業、材料系企業、情報系企業)との連携を更に強化することを目的に「Ph.Discover」プロジェクトにも参画しており、大学院生がキャリアパスを描き、学位取得後の目的を設定できるようにすることにより、博士課程進学へのモチベーションを高める環境を整えています。

 札幌農学校以来、北海道大学が掲げてきた4つの基本理念である「フロンティア精神」、「全人教育」、「国際性の涵養」、「実学の重視」のもと、化学を中心とする基礎的および高度に専門的な理学、工学の素養を身につけ、先述した地球規模の問題を解決に導く人材となるとともに、大学院生活を通して人間性を養い、自然に恵まれた広大なキャンパスのなかで多くのよき友人を得て、次世代のリーダーへと成長し、社会に大きく羽ばたくことができるよう、総合化学院で研鑚されることを願っています。