令和6年4月
大学院総合化学院長 忠永 清治
「化学」は、原子や分子、さらにその集合体の性質、構造と変化を扱う学問であり、非常に幅広い領域を対象としています。化学は主に実験事実を積み重ね、その中から法則性を見出すことによって進展し、発展を遂げてきました。しかし、20世紀初頭に原子、分子の運動を記述する量子力学が確立し、これをベースにその後のコンピュータの進歩により、理論化学・計算化学という分野が大きく進歩してきました。実験化学と理論化学・計算化学の融合によりさらに研究が発展することが期待されます。
本学院は、化学現象を原子・分子レベルで原理的に探究する理論・計算化学から、物理化学、無機・分析化学、有機化学、生物・生命化学といった基盤となる分野、さらには触媒、医薬、プラスチック、セラミックス等の機能性物質を創製する展開研究まで、幅広い学問分野を網羅しています。その中で、世界中で取り組まれているカーボンニュートラルな社会の実現、あるいは、国連で定められた持続可能な開発目標(SDGs)を達成にむけた様々な取り組みに見られるような、環境・エネルギー問題や生命・健康に関わる領域、さらには人工知能が先導する化学を目指したデータ科学まで、時代とともに進展する新たな課題や新手法を取り入れながら教育・研究活動に取り組んでいます。
本学院は、化学の基礎に重点を置き、現象を理解する立場から物質を考える理学部化学と、実学を重視し、人工物による物質・反応のデザインの立場から物質を取り扱う工学部応用化学の融合に加え、学内の触媒科学研究所、電子科学研究所、遺伝子病制御研究所、化学反応創成研究拠点の協力、学外の物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、理化学研究所との連携により組織された、化学に特化した国内では他に類を見ない「総合化学」の大学院であることが特徴として挙げられます。具体的には上記組織に属する50の研究室が、それぞれの研究分野に応じて、以下の三つのコースに所属し、化学の各専門領域について理学系・工学系の双方の立場から俯瞰した体系的教育が実現できるカリキュラムを組んでいます。
- 分子化学コース
- 物質化学コース
- 生物化学コース
分子レベルでの反応の制御と解析、反応を効率的に実現する触媒開発と、それを巧みに利用した化学プロセス開発に至る一連の反応開発とプロセス設計
分子や原子を階層的に組み上げることにより新たな新機能を示す有機高分子、無機材料、金属材料、ナノ材料等と、その複合材料の創製
細胞と生物自体の構造・機能の化学的な解析に基づいた生体システムの人工的制御と生体の各種機能を発現する医学・医療関連材料の設計
本学院では、本学または海外連携大学で海外の学生と共に英語講義を受講する「Hokkaido Summer Institute」や「Learning Satellite」等のプログラムへの参画により、教育の国際化に積極的に取り組んでいます。さらに、フロンティア化学教育研究センター等の協力を得て、本学院の学生が海外の研究室に2ヶ月程度滞在して共同研究を進める「ショートビジット」、海外からの大学院生を受け入れる「ショートステイ」、また博士後期課程学生自身が企画・立案等すべてを行う「Chemical Sciences and Engineering (CSE) Summer School」をはじめとした留学生との各種交流事業により、世界的に活躍できる、異文化理解力や国際的コミュニケーション能力を身に付けた学生の育成を進めています。
総合化学院は、本学の掲げる「フロンティア精神」、「全人教育」、「国際性の涵養」および「実学の重視」に基づいた教育理念のもと、化学および関連する広範な学問領域において次代を担うフロントランナーの育成に向けて邁進して参ります。