物質化学コース

天然資源に恵まれない我が国が、将来にわたって世界をリードして発展を続けるためには、新たな「物」づくりを活発に行う創意工夫に溢れた科学技術の創出が不可欠である。独創的な新物質・材料の創製や新機能の創出は、「物」づくりの根幹となる重要な科学技術である。これを支えることができる唯一の学問領域が化学である。

分子や原子などが集合体を作ることにより凝縮系の物質が形成され、興味深い様々な機能や物性が発現する。このような物質において高い機能が発現する原理を理解させるとともに、有機高分子、無機材料、金属材料及びそれらを組み合わせた複合材料を新たに創製し、新機能性を生み出す合成法を学習させることも重要である。物質における様々な機能性は、それを構成する多様な元素の電子状態、元素間の化学結合、結晶構造をはじめとする集合体の様々なレベルでの構造によって発現する。それらの量子論的な取扱い及び化学熱力学や平衡論などの基盤的な学理を究めると共に、物質が示す電気伝導体、半導体、圧電・誘電体、磁性体、蛍光体、耐食・耐熱体などに代表される物性を組み合わせることにより、従来には無い高度な機能を持つ材料が生み出されることを修得させる。また、ナノセラミックス、ナノ材料、光機能材料などの次世代を担う材料の創製と物性評価も極めて重要な課題である。

本コースの特徴は、様々な分子や金属錯体などの分子集合体の合成と機能発現の学理を中心として教育する有機・複合分子系から始まり、優れた機能性に富む金属、酸化物、セラミックスを含む無機材料の創出に関与する幅広い物質・材料系の化学を修得させる無機系、さらには無機物質を中心とする材料をエネルギー変換に利用する物質化学を修得させる先端物質系まで、凝縮系の物質化学を総合的に教育する点にある。本コースには以下の4講座を設け、教育を展開する。

分子物質化学講座

分子性物質において分子、電子、光子などが相関性をもって関与する高次機能の発現においては、複合分子系が有する多様性の利用が必要不可欠である。人工的な複合分子系物質は、既存の材料の予想を越えた高い機能性を生み出す可能性がある。これを実現するため、分子性物質、金属錯体、分子集合体および人工超格子の創出に向けた物質設計と創製法、構造解析と機能発現機構を解明する研究手法を修得させる教育・研究を行う。

無機物質化学講座

無機物質は耐熱性や耐食性に優れるとともに、多様な元素の組み合わせからなる様々な結晶構造をもつ。これらに基づく電子状態を自由に制御することにより、電気・磁気的性質や光機能性などの様々な機能が発現する。現代生活に欠かせないパソコンや携帯電話、光通信ネットワークなどには数多くの電子・磁性・光学的な機能に優れる無機材料が使われている。さらに優れた機能を発現する無機材料の設計と創製、構造解析、物性評価の基礎を習得させる教育・研究を行う。また、量子論に基づいた固体化学や相平衡などの熱力学の理解を促す教育も併せて取り入れる。

先端物質化学講座

地球環境の改善やエネルギー問題の解決に向けて、エネルギー効率の高い材料造りや応用技術が求められている。これを実現するためには、物質の化学的な機能性を利用することが重要であるとともに、エネルギーの伝達・変換には物質表面および界面における電子やイオンの高効率な移動が不可欠である。耐久性に優れる無機材料を中心として、エネルギー伝達・貯蔵・発生に有効な界面・表面をもつ機能材料の創製と評価に関する教育と研究を行う。

機能物質化学講座

社会から求められている超伝導、光触媒、固体電解質などの新規材料の開発を実現するには、完成度の高い物質構築や物質応用手法の探索が必要である。最先端の強相関電子物性、バンド構造解析、ナノ構造探索、バルク・界面構造の特徴に関する応用的な知識を習得させるとともに、マルチフェロイック性、ハーフメタル性、光誘起機能などの物性発現を指向した、ミクロ・マクロスコピック両面の視点を兼ね備えた物質構造制御・材料構築の技術を修得させる教育・研究を行う。また、先進的な物質合成、精密構造解析、物性評価を通して、応用展開が期待される新物質を開発する知識や技術を修得させる教育・研究を行う。