生物化学コース

生物化学コースでは、生命現象における基本原理の化学的解明とその応用を目指す教育と研究を行う。生命システムは化学反応の究極の総体であり、階層性・自己集積能を基盤とした創発ともいえ、物質・エネルギー・情報の生成、変換、代謝の動的生命活動の基盤である。生命現象を様々な角度から切り出して表出される断面は、常に生体システムを支える生体分子群の精緻な構築原理と調和のとれた働き、そしてそれらを統御するネットワークによって描写される。本コースでは、「生物化学」を4つの構成講座(生命分子化学、生物機能化学、細胞生物工学、分子医化学)に共通に通底する基本学理として据える。近年、世界的にケミカルバイオロジーがケミストリーと両立する学問体系として育ちつつあり、バイオケミストリーと並び、生命システムを化学的に理解し、かつ新しい研究を創造する上で極めて重要な分野として認識されてきている。本コースでは、このような新世紀の潮流を受け止め、理・工連携の特徴を最大限に活かす教育・研究を行う。すなわち、様々な化学的解析手法を駆使して広範な生命現象を分子レベルから個体レベルまでにわたって解明し、それらの成果を多種多様な分野に応用展開できるバランス感覚に富んだフロントランナーを育成・教育する。

この新たな教育分野として、本コースでは以下の4講座を設置し、講座間あるいはコースを越えて相乗的にクロストークできる教育カリキュラムを編成・提供する。目指す育成人材像は、たとえば、「細胞とは何か?」という問いかけに対して、生命現象に科学的な解析を行い、その根底にある基本原理を解き明かし、更に進んでその応用として「生命倫理を尊重しつつ細胞を自分で作ってみて理解する」というチャンレンジができる学生である。このような学生を育て輩出することが本コースの使命であり、この使命に沿った体系的な教育を行う。

生命分子化学講座

多彩な生命現象を発現する生体分子あるいはそれらの複合体、さらには機能集合体の構造と機能の制御機構の分子論的な解明を目指す。また、対象とする生命現象や生命システムを、原子・分子・細胞・組織・個体の階層に応じた多様かつ精密な解析による生命創発の基本原理の理解を進める。教育的な特徴としては、関連生体分子の詳細な化学的解析を基盤として、階層の積み上げによる生体システムの描写を介したボトムアップ的思考に加え、生命システム内で展開している生体分子の自己集積と解離のダイナミズムを統括的に掌握でき、システムバイオロジー的解析も加えた統合的な生命現象の解明を開拓することのできる人材を育成する。

生物機能化学講座

生物機能の機構解明を基点に、生物活性を有する複雑な低分子化合物の精緻な構築機構や様々な生命現象に関与する生体分子とそれら集合体の相互作用様式を徹底的に理解し、酵素機能の人工制御による新たな有用分子あるいは環境・生体調和型システムの創製を目指す。特に、生命システムは、生体分子間の相互作用によって統御されるネットワークの動的平衡(ホメオスタシス)によって支えられていることを、複眼的に洞察できる能力開発を積極的に推進する。生命システムの構成分子を単純に組み合わせるだけでは、生命機能(物質・エネルギー・情報の変換)が作動することが無いことを深く認識し、時間軸・空間軸を考慮した動的仕組みの理解を促すようなトータルネットワーク掌握型教育を提供する。

細胞生物工学講座

生命活動の最小単位は細胞である。この細胞が化学反応の総体であるという基本概念に基づき、遺伝情報の発現様式、生体触媒であるタンパク質酵素や核酸触媒の作動メカニズムの解明を通じて生体システムおよびプロセスの構築および制御原理を、工学的側面を含めて理解する。細胞機能を一つの薬として位置づけ、医療分野に応用する再生医療学・医工学を視野に入れ、理・工が連携した講義課目群を通して理解を深め、医療に社会貢献できる人材を育成する。また、生命倫理を正しく理解した社会貢献のできる細胞生物工学者の養成を行う。

分子医化学講座

生物化学的な根拠に基づく生命原理を分子レベルで解明し、細胞さらには個体レベルで再構築することにより生命を理解することを通して、生命原理を制御するシステムの破綻がもたらす疾病の発症ならびに病態形成メカニズムの解明を目指す。こうした生体システムの破綻は遺伝子レベルの異常のみならず、エピジェネティックな制御の異常にも起因することが考えられ、化学と医学の横断的な立場から、生体システムを構成する様々な分子の機能的あるいは構造的な異常と疾病との関連性を解析することを通して有為な人材を育成する。特に、生命医学に興味のある学生が、これまでに習熟した化学の基礎技術を生かし、さらにそれを発展させることにより新たな研究の展開へつなげることを促す教育・研究を行う。